ほんのりと怖い話。

ほんのりと怖い話を日々更新して逝きます。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

オイナリサン

木曜日、友人から電話があった。
「ねえ、伏見稲荷って行った事ある?」
快活な彼女らしくない、沈んだ小さな声だった。
「ええ?何いきなり?」
聞けば、1ヶ月前手術を受けた母親の回復が、余り思わしくないのだと言う。
どうして伏見稲荷なのか聞いてみると、雑誌に出てた写真に強く惹かれたのだと彼女は言った。
それまで、他人が勧めてくれた所は全部胡散臭く思えたのに、
何故かここなら大丈夫だと思えたらしい。
普段、非科学的な事はすっぱり切り捨てるひとなのに、よっぽど参っているのかと思い、
日曜日に会う約束をして受話器を置いた。

京都・伏見稲荷大社は、東山三十六峰の最も南に位置する、古い神奈備山の麓にある。
本殿の裏は標高233メートルの稲荷山で、まだ夏の濃い緑色を残した山中に、
1万余基の朱塗の鳥居が連なって道を成す様は、ちょっと余所ではお目にかかれない。
「あっちね」人の流れに沿って、彼女は右側の千本鳥居の方へ行こうとする。
「こっちだよ」と左側を差すと、少し不審気な顔をし「何故?」と聞く。
「何でもない時なら左右どっちからでも構わないけど、今日みたいに再生・復活の願いを込めてお参りする時は、左側から時計回りに行かないとね。お百度も同じ」
途切れない程度に人が続く細い坂道を、彼女の手を引きながら登って行く。
この御山の特徴はもう一つ。神々の降臨跡に設けられた正規の御社の周囲に、御塚と呼ばれる、
人々が願いを込めたMy御社がぎっしりと建てられている事だ。
ここには願いの数だけ御社があり、神々がいる。
俺にとっては何ともない事だが、そう言った数多くの社の存在と、願い事が叶ったお礼に奉納される朱塗の30センチ程のミニチュア鳥居がうずたかく積まれている光景は、彼女にとっては一種カルチャーショックだったようで、顔を強張らせたまま、しばらく口を利かなくなってしまった。

稲荷山は3つの峰を持っている。
その最初の峰への道の中程に、俺たちが目指す薬力社があった。薬力さんはその名の通り、
薬石の効力を高め、疾病に悩む人々を救うとされているお稲荷さんだ。
お賽銭を上げ、両手を合わせて祈る。
ふと、何か見られているようで、気になってそちらへ顔を向けてみた。
まだ真剣に祈り続けている彼女の向こう、御塚の古びた石の台に山と積まれた朱塗のミニ鳥居の上に、
白銀色にお日様の金色を少し混ぜたような、輝く毛並みの小さな狐が
ちょこんと座ってこっちを見ていた。
大きさは生まれたての仔狐程だが、その思慮深げな顔付が自ずと歳経たものだと語っている。
なぜだか、白檀のようないい香りがした。
あんまり不思議で美しい狐だったので、目が離せなくなった。
そんな俺の傍らを、参詣の人たちが気にも留めずに通り過ぎて行く。
何秒くらいの事だったか。
瞬間、それがニコっと笑ってうなづいたような気がしたので、慌てて目礼する。
「どうしたの?」傍らで不思議そうな彼女の声がした。
目を開けると、狐は当然もういない。
「いや…」もう一度お賽銭を上げ、ポケットの中のチョコレートを供えた。
代わりに、先に供えられていたキャンディーをひとつ貰って彼女に渡す。
「え、良いの?」彼女は戸惑っていたが、
「お下がりだよ」そう言うと、頷いてバッグにそれをしまった。

水曜日、また彼女から電話があった。母親が快方に向かっていると言う。
「退院したらお礼参りに行くつもり。また一緒に行ってね」
先日とは打って変わった弾んだ声だった。
あの小さな狐が薬力さんだったのか、その御眷属だったのか、俺には全くわからない。
でも、あの優しい微笑はこの事を示していてくれたような気がする。
妙なものに出会うのも、たまにはいいもんだと思った。
スポンサーサイト
  1. 2005/09/30(金) 13:42:18|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<ヤママツリ | ホーム | サンボンメ>>

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://honnori.blog14.fc2.com/tb.php/122-d9f37692
09 | 2017/10 | 11
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

Recent Entries

Links

Recent Comments

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。